Single Father

 

 


「おい恭介ちょっとこっち来い」
「なんだ親父」
親父はいつになく真剣な顔をしていた。

 

「おまえ、いくつになった?」
「自分の息子の歳ぐらい覚えていろ。25だ」
「そうか…」
親父はそれきり黙りこくっていた。
「いきなりなんだ。急にこっち来いとか座れとかいくつになったとか…」
「座れは言っていないぞ。それはいいが、お前に大事な話がある」
「それこそ何だいきなり」

 

…親父は非常に言いにくそうだった。
「…おまえには母さんがいないわけだが」
「そりゃ親父がダメだからだろ。別に気にしちゃいない」
「まあ話は最後まで聞け。実はな…」
「…」
「…」
「…なんか言えよ!」

 

俺はさすがにいらいらしてきた。

 

俺のうちはいわゆる父子家庭というやつで、母親はかなーり昔
(ていうか俺の記憶には無い、まったく。なさ過ぎ。)に死んだ
らしい。

 

死んだらしいていうか仏壇があったりするし、墓もあるから
そりゃ死んだんだろうけどと普通に考えたら思うよなぁ。

 

だから悲しいと思ったこともないし、そのことで親父を責める
年でもない。(ガキの頃はたまーにやったが)

 

「…ははぁ、わかったぞ」
「何だ?」
「実は俺は養子なんだろ。そりゃおかしいよな、親父が再婚出来そうな
 気配とかまーったくなかったし」
「うっ」
「なんだか怪しいとは思っていたんだ。いくらなんでも子供が
 一人で生まれてくるわけもなく…」
「…恭介」
「なんだ?」
「人間は…、いくら感が良くても当たらないことがある
「そりゃ俺は結構感はいいが…」
「何故か。それは状況が想像を上回ることがあるからだ
「…おい、親父いきなり何を言ってるんだ」
「お前の言うことは半分当たっている、お前に母さんはいない」
「…オイ待て、母さんはいないって俺は単細胞生物か?」
「残り半分。それはお前は俺の子だ、遺伝子的にも」
「…?すると代理母か?」

 

 


「…いや、私はお前の、…母だ!!」

 

 

 

 

 

…人間には、どうやら時を止める能力があるらしい。
膨大な時間が過ぎる感覚と、実際に流れる時間感覚のずれ。
あたかも空間の歪曲に飲み込まれるような感覚が俺を…

 

 

 

 

 

 

「おい。気持ちはわかるが現実を受け止めろ」
「…受け止めたくない現実を提示するな
現実とは常に残酷なものだ。
「一つ聞く。親父はどうやって俺を作った」
「んー、まず卵子バンクから卵子を購入して、それを顕微受精。
 それで卵子を腹膜に移植して男性ホルモンを抑制して…」
「…プロトコルはいい。しかしわかった。それで帝王切開だな」
「正解」
「正解、じゃねぇ」

俺はどうやら人体実験で生み出されたらしい。とんでもない話だ。
目の前にいるのが親父ではなくお袋なのか?

「ったく、俺は何か?フランケンシュタインか何かか?」
「ま、そういうな」
「そういうな、じゃねぇよ」

親父の話によると、21世紀初頭の日本はエラく大変な時代だったらしい。
男性あまりと男性の地位低下で社会は無茶苦茶。出生率は1を切った。
そこで時の日本政府はとんでもない案を出す。

男性による出生の許可だ。

その結果シングルファーザーが激増、日本は未曾有のベビーブームに
突入するわけだがそれはまた別の話。

「それは知ってるが…」
「今だから話すが、お前はその第一号なんだ」
「…マジかよ」
「正確には第八号くらいなんだが、みんな死んじまった。しかしお前は
 生き残った。おまえはこうしてここまでになったわけだ。
 母さん嬉しいよ
「母さんうれしいよってあんたな」

それにしてもとんでもない政策だ。そりゃ時の首相を変態と呼ぶだろ。
しかしそれ以外に解決策なんて無いだろうしなあ。
昔は女性蔑視反対の名の元、男性蔑視する団体がいたらしい。
今ではまぁ、破防法適応されたある組織とのつながりがばれて
下火になっているが。

それゆえ男性による出生は極端に減ったが。

「…しっかし、いきなりなんで今更こんなことを言うんだ」
「実は、良心の呵責に耐えかねてな…」
「もういいよ」
「いや、そこじゃない」
「は?」
「俺もこの年になって結婚することになった」
「はぁ」
「しかも出来ちゃった結婚だ。今度こそ父さんになれる」
「どうでもいいじゃないか」
「ただ、相手がな…」
そこには、俺の彼女がいた。

 

 

 

 

…あたかも空間の歪曲に飲み込まれるような感覚が俺を包み
さまざまな光景を映し出していく。それは過去のものであろうか、
それとも未来からの光景で…

 

 

 

 

「おい、気持ちはわかるが現実を受け止めろ」
「受け止めたくない現実を2度も提示するなあああぁぁぁ!!!!」
俺は生まれて初めて親父を殴った。何故かアッパーで。
親父は五秒ほどダウンしていたが、何事も無かったかのように、
「と、いうわけで彼女がお前の…」
「母さんか?」
「いや、父さんだ
「それは違うだろ」
俺はもういいかげん落ちが欲しかった。
しかしこの年になってお兄さんですか。兄さん悲しいよ
「あ、遺産相続だがな、嫁50%、子供は人数割りだから
「おい、まだ作る気か」
「いや、双子だ

 

 

 

…未来からの光景であったのだろうか。しかしもうそれはどうでも
いい。俺をこの地獄から引き上げてくれるなら例え蜘蛛の糸…

 

 

 

「気持ちはわかるがいいかげん現実を受け止めろ」
「受け止めたくない現実を3度も提示するな、最後のは少し嬉しいが
「だろ、家族が増えるんだからな」
「だからってな、頼むから彼女を取らないでくれ」
「いやまあ、そこはそれ流れってやつだ」
もういい。勘弁してくれ…

 

 

 

 

そういうわけで俺はしばらく実家には帰りたくない。
ただ、一つだけ言わせてくれ。

 

男性出産なんて止めた方がいいのではないか、多分。

 

ま、今更死ぬ気も無いし精一杯生き抜くかな。
女なんて腐るほどいるわけだし。男の方が少ないからな今や…

 


「…政府は男児出生を奨励しており、その場合には奨励金を出すことに
 しております。詳しくは厚生労働省のページを見てください。では、
 次のニュースです…



他のはこちら

テレワークならECナビ Yahoo 楽天 LINEがデータ消費ゼロで月額500円〜!
無料ホームページ 無料のクレジットカード 海外格安航空券 海外旅行保険が無料! 海外ホテル